裸蹄へのロードマップ

  • 裸蹄にする時期

 

 蹄から蹄鉄を外してよく観察してみると、釘穴の大きさや、そこから広がっている細かなひび割れに驚かれると思います。蹄壁の被っているダメージは予想よりも大きいものです。蹄の「怪我」と考えるのが正しい。
 ので、そのダメージから蹄が問題なく回復できるように、裸蹄にする時期を慎重に決めましょう。原則的には感染症の原因となりえる細菌や虫類の活動が不活発な寒い時期、できれば汚水にさらされる可能性が低い、乾燥し雨の少ない時期が望ましい。


 冬か、あるいは4~5月ごろが管理が楽ではないかと思います。冬は蹄の伸びが遅くなると言われていますが、血流が改善されれば、必ずしもそうはなりません。やや時間がかかる程度です。

 

  • 裸蹄にする順序

 

 特に体重のある馬の場合、いきなり4肢全てから蹄鉄を外すのは危険です。蹄底が落ちたり、蹄壁が広がったりして、却ってダメージがひどくなる恐れがあります。最初は後肢2肢からはずして様子を見てみます。後肢の蹄叉が大きくなり、蹄全体で体重を支えられる準備ができたら、前肢を外します。そうなるまで、数カ月はかかるでしょう。


 動物は基本的には体重の6割を前肢で支えています。従って、前肢から外すのはお勧めできません。ダメージが強く出る恐れがあるからです。

 

  • 裸蹄のケア

 

 ケアよりも観察が望まれます。水で洗いたくなりますが、なるべくガマン!!蹄油を塗る必要も特にありません。蹄油内の細菌について、詳細な調査はなにもなされていないからです。蹄油の中で使える可能性のあるのはティーツリーオイル配合のものだけです。ティーツリーオイルは、相当な殺菌力・抗菌性が見込まれているからです。蹄壁には塗らず、蹄底に塗って下さい。ベタベタ毎回塗る必要はありません。塗れば塗るほど、蹄の構造が弱体化する可能性があります。

 

 

  • 蹄の環境管理

 

 蹄に対するダメージで最も大きいと考えられているのが厩舎の床に滞る尿の成分です。蹄は皮膚の角質と基本的には同一物で、タンパク質から構成されています。尿素もアンモニアも、蹄の角質に対するダメージがあります。、コンクリの床+尿が撒き散らされる厩舎内の暮らしが最も蹄によくないわけですが・・・・・・・。


 普通の乗馬クラブ等では、環境整備をしたくとも、現実的には厩舎内暮らしを余儀なくされている馬が大半であり、かつ、それを是正する適切な手段がなかなかとれないのが現状だと思います。


 但し、厩舎生活で、装蹄した蹄と裸蹄と比較すると、装蹄した蹄の方がはるかにダメージが大きい。その理由として、新旧の釘穴から汚水が蹄内に侵入してしまう事が挙げられます。毛細管現象で水分が吸い上げられてしまうせいで、これは装蹄師さんの技術とは全く関係ありません。単純な物理現象です。しかし、日本の馬に蹄病が多い原因の一つには、これが大きく関わっている可能性があります。


 裸蹄の場合蹄に穴などはありませんから、蹄底に抗菌作用の強い蹄油を少量塗ることで、ダメージをそこそこ防止することができます。塗り過ぎは厩舎内のスリップ事故の原因となりえます。要注意。

 

  • 変形を防ぐには

 

 家畜馬の蹄は 蹄縁がすそ広がりに変形しやすいものです。これを防ぐには、当協会推奨のエボルーショナリーフーフケア製品の蹄ヤスリ等を利用して、蹄縁の外側を丸く削り込むことである程度防ぐことができます。それでも変形してきたころ合いが、削蹄のタイミングです。

 蹄の変形には栄養も関与しています。裸蹄にした馬に濃厚飼料は禁忌(与えてはいけない)です。租飼料のみにすることで、丈夫な蹄が育つのです。結局濃厚飼料に費やしたおカネが必要なくなります。租飼料だけで馬体が維持できるかどうか、不安な場合は、当協会推奨のSKゴールドを少しずつ与えてみましょう。納豆菌によるプロバイオティクスの効果と、馬体をつくる基本となる植物性タンパク質、さらに繊維質を豊富に含むSKゴールドは、安心して与えられる補助飼料です。

 

 

  • ビオチンについて

 

 蹄の健康のために、とうたわれているビオチン。しかし、この栄養素について、ほとんど分からないままなんとなくサプリとして与えている方が多いのではないでしょうか。
 

 ビオチンはビタミンBの一種です。ビタミンBは水溶性ビタミンで、必要以上に摂取してもすべて尿中排泄されます。また、食品だけでなく腸内細菌によっても合成されるので、基本的に欠乏症はあり得ないとされています。つまり、与えても特に意味はない、と考えられます。過剰摂取はむしろ哺乳類では妊娠個体に対する悪影響が示唆されています。
 蹄=爪に必要な原料はあくまでタンパク質で、ビオチンは多少助ける働きがある程度と考えるべきです。蹄を建物に例えると、タンパク質が建物をつくる柱、ビオチンは釘にあたります。釘がジャラジャラあっても柱がなければ、建物は建ちません。同じ事が蹄にもいえます。
 ビオチン欠乏症は栄養障害です。従ってその症状が蹄だけに現れることはあり得ません。根拠のないサプリを無理に食べさせる必要はありません。


ビオチンについての情報はこちら・またはこちらをご覧ください。

 

 日本では裸蹄管理は江戸時代までは全く当り前のことでした。装蹄は明治になってヨーロッパから入ってきたものです。しかし、その後、現在に至るまで装蹄にこだわるあまり、かつて普通に存在した日本の気候に合った裸蹄管理法は完全に失われてしまいました。しかし、馬の数が減り、更に装蹄師さんがどんどん減っている今、新しい裸蹄管理法を考えるべき時期に差し掛かっている、と当協会は考えております。それについての情報発信をブログで行う予定です。